This page may contain third-party content, which is provided for information purposes only (not representations/warranties) and should not be considered as an endorsement of its views by Gate, nor as financial or professional advice. See Disclaimer for details.
【為替】「歴史的円安」1周年で何が変わったか | 吉田恒の為替デイリー | マネクリ マネックス証券の投資情報とお金に役立つメディア
円売りから円買いへ=ヘッジファンドなど投機筋の大転換
2024年7月、米ドル/円は1986年以来の161円まで上昇し、「歴史的円安」と呼ばれた。そうした中で、為替市場では円売りが拡大し、特にヘッジファンド(以下ヘッジF)の取引を反映しているCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは売り越し(米ドル買い越し)が18万枚以上に拡大、2007年に記録した過去最高とほぼ肩を並べるところとなった(図表1参照)。
【図表1】米ドル/円とCFTC統計の投機筋の円ポジション(2024年5月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成
あれからちょうど1年が経過、足下の米ドル/円は140円台で推移し、米ドル安・円高に戻すところとなっている中で、1年前からの大きな変化が投機筋のポジションだ。投機筋の円ポジションは最近にかけて一時買い越しが17万枚以上に拡大し、足下でも10万枚を大きく上回る動きが続いている。
歴史的円安反転と構造的円安論の関係を検証する
「歴史的円安」の理由として、日本経済衰退化の影響という構造的円安論も注目を集めた。これを象徴する指標は、日本の貿易赤字拡大や「デジタル赤字」など新たな赤字要因の出現を反映している貿易・サービス収支だろう。この貿易・サービス収支は、2024年第4四半期には小幅ながら一時黒字を回復した(図表2参照)。
【図表2】米ドル/円と日本の貿易・サービス収支(2000年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成
しかし、そもそも2022年に記録した過去最高の赤字から「歴史的円安」のピークを記録した2024年にかけて、すでに赤字は大きく縮小していた。その意味では、このような貿易・サービス収支などから「歴史的円安」が日本経済衰退化の結果と説明するのは、あまりにも無理があったのではないか。
以上からすると、この1年の「歴史的円安」の反転も、日本経済の衰退化という構造的円安論で説明できるところはほとんどないだろう。歴史的円安が反転した背景は、ヘッジFなどの投機筋が積極的な円売りから積極的な円買いに転換したことになるのではないか。
金利差から見ると不合理なヘッジFの円買い
それにしても2024年までの積極的な円売りは、金利差の観点からすると合理的なものだった。2024年7月に投機筋の円売り越しが18万枚以上と過去最高規模に拡大した頃、日米10年債利回り差(米ドル優位・円劣位)は一時より縮小したもののなお3.3%程度と大幅な状況に変わりはなかった(図表3参照)。
【図表3】米ドル/円と日米10年債利回り差(2024年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成
このように大幅な金利差円劣位の中での円売りは合理的なものであり、むしろ「合理的過ぎる」ことが投機筋の円売り「バブル化」をもたらし、その破裂が2024年8月にかけて1ヶ月にも満たない中で161円から141円まで約20円もの米ドル/円大暴落(円高)をもたらした主因と考えられた。
日米10年債利回り差は、最近にかけて一時2.6%程度まで縮小した。ただ客観的に見ると、なお3%近い日米金利差は大幅な円劣位には変わりなさそうだ。その意味では、最近にかけての投機筋の記録的な円買い拡大は、金利差から見るとかなり不合理な動きということになるのではないか。
「合理的過ぎる」円売りバブル化の歴史的円安の反転
ヘッジFは、「プロ中のプロ」の投資家として知られる。そのヘッジFがなぜ「不合理な円買い」拡大を続けたのか。金利差から見ると合理的ではない円買いを正当化するのはトランプ政権の円高要請だろう。その意味では、「プロ中のプロ」のヘッジFは、トランプ政権の通貨政策に合理性を見出して動いているということなのではないか。
1年前の「歴史的円安」が、金利差から見て合理的過ぎた円売りが「バブル化」した結果だったのに対し、その後の「歴史的円安」反転は、金利差から見ると不合理な円買いがトランプ政権の通貨政策に合理性を見出した影響が大きそうだ。その意味では、トランプ政権の通貨政策次第では円安へ戻すリスクもなくはないだろう。
その一方で、トランプ大統領の政策への不信感が米ドルへの信認を揺るがすとの要因も、米ドル高・円安への戻りを限定化させるようになったというのが、米ドル/円の置かれる現在地ということではないか。