Oracle Extractable Value(OEV)はMaximal Extractable Value(MEV)のサブカテゴリであり、OEVはプロトコルが価格オラクルからアップデートを受ける際に抽出可能な価値を指します。これはDeFiエコシステムにおける新たな課題と大きなビジネス機会を創出しています。
1. OEVの概要
定義
OEVはプロトコルが価格オラクルから情報を受け取ることで生成されるMEVの一種です。主にレンディングプラットフォームの清算やDEXでのアービトラージ機会時に発生します。ブロックチェーンオラクルはDeFiプロトコルへ価格情報を提供し、担保資産や借入資産、流動性プールの価値を算定します。これらの価格アップデートがイベントのしきい値を引き起こします。
OEVの仕組み
OEV抽出の主な流れは以下の通りです。
- 価格アップデート:オラクル(ChainlinkやPyth等)がDeFiプロトコルへ価格情報を送信する
- トリガー:アップデートがイベント閾値に達し、清算やアービトラージ機会が発生
- 処理:清算者は債務を返済し、清算ボーナス付きで担保取得。アービトラージボットは価格差を利用したスワップで利益獲得
- MEV抽出:サーチャーが高額でブロックビルダーに取引インクルードを競う
OEVの課題と機会
OEVはDeFiエコシステム内で以下の主要課題に直面します。
- 価値流出:AaveやCompoundなど、主要プロトコルはそれぞれMEV抽出者へ1億ドル以上の価値を喪失
- 執行の過払い:レンディングプロトコルは、清算促進のため固定報酬を支払うが、ローン露出時に過払いになることが多い
- オラクル遅延アービトラージ:パーペチュアルプラットフォームではブロックタイムやガス代による価格乖離が発生
- LP価値喪失:流動性プロバイダーは、アービトラージ利益の再分配を逃すことが多い
OEVキャプチャの導入には以下の利点があります。
- 新規収益源:MEV抽出者の取り分だった価値を持続的にプロトコル収益化
- ペナルティ低減:清算ペナルティを5~10%削減し、ユーザーコスト減少
- 取引手数料削減:パーペチュアルプロトコルはアービトラージ利益をLPへ還元し手数料を下げられる
- オラクル性能向上:OEV専用オークションで遅延影響を緩和
- DeFi運営持続性:キャプチャした価値で運営維持・ユーザーインセンティブ強化
利点がある一方、以下の課題も残ります。
- オラクル遅延:オークション化によりアップデート遅延が発生し、清算ボーナス調整が必要
- セキュリティ課題:オラクル基盤の安全を損なわない設計が不可欠
- 実装の複雑性:MEVキャプチャは設計が難しく、Non-EVMなど新レイヤーでは運用方法も大きな課題
- 最適化課題:MEV再捕捉と不良債権リスク、ボット攻撃へのバランス調整が必要
2. OEVソリューションの全体像
Oracle Extractable Value(OEV)市場は急成長しており、失われていた価値の再捕捉を支援する革新的なソリューションが登場しています。各ソリューションは独自の技術、アーキテクチャ、価値創出方法を持ちます。以下で詳しく整理します。
UMA’s Oval:OEVオークションのパイオニア

出典:Uma Project
コアアーキテクチャ
- ラッパー構造:Chainlink価格フィードをラッピングし、オラクルアップデートをプロトコル到達前に傍受
- MEV-Share連携:FlashbotsのMEV-Share基盤によりシールドビッドオークション実施
- スマートコントラクト設計:勝者がイベントを実行し収益返還する2段階トランザクション方式
技術的特徴
- オークションパラメータ調整:プロトコル側で期間(1~2ブロック程度)を設定し、MEV捕捉と遅延リスクを最適化
- 利益分配:収益の90%をプロトコル、10%をインフラ提供者へ動的分配
- 自動フォールバック:入札無し時もオラクルアップデート継続処理を保証
制約事項
- オラクル限定:現状Chainlink価格フィードのみに対応、他オラクル運用プロトコルには非対応
- ブロックタイム制約:Ethereumのブロックタイムによる効率低下や遅延リスク
- 実装負荷:統合に大規模なプロトコル改修が必要
Chainlink Smart Value Recapture(SVR):リスク調整型

出典:Chainlink & Gate Ventures
コアアーキテクチャ
- 二重アグリゲータ方式:主要・副アグリゲータによる独自スマートコントラクト設計でセキュリティ強化
- Value-at-Risk(VaR)フレーム:高度なリスク計算による清算パラメータ動的調整
- Chainlinkネイティブ連携:Chainlinkオラクル基盤にダイレクト組み込み、統合コスト低減
技術的特徴
- リスクベースの清算閾値:市場変動やポジションサイズに応じ清算ボーナス自動調整
- 多段オークション:初回失敗時は段階的に制約緩和し再実施
- クロスアセット最適化:複数担保資産の横断清算効率化
- バリデータ参加:Chainlinkノードオペレーターによる検証参加可能
制約事項
- オラクルロックイン:Chainlinkのみ対応で、複数オラクル戦略非対応
- 計算コスト増:高精度VaR演算による負荷増加
- ガバナンス複雑性:パラメータ設定項目が多く管理負担増
API3’s OEV-Share:オラクル中心型

出典:Silo Finance
コアアーキテクチャ
- サイドカー型:既存オラクルアップデートと並行し、置き換え不要
- API3ファーストパーティ特化:自社オラクル連携前提で直接データ源統合
- 独占アップデート権:オークション勝者が専有的にオラクルアップデート発動
技術的特徴
- レイテンシー低減:従来型より遅延を約40%削減
- データプロバイダー分配:元データ提供者も収益配分参加可能
- Airnode連携:API3のAirnodeで安全分散型オラクル運用
- マルチチェーン対応:複数ブロックチェーン環境で展開可能
制約事項
- API3特化:API3ネットワーク専用最適化
- 市場合浸透度:Chainlink系より普及度低
- オークション複雑性:最適化難易度が高い
RedStone OEV:柔軟ハイブリッド型

出典:Redstone & Gate Ventures
コアアーキテクチャ
- プッシュ・プルハイブリッド:従来型プッシュとオークションプルを一体化
- 柔軟データ配信:オンチェーン全価格点保存不要の独自データ供給方式
- パーミッションレス導入:どのプロトコルも提携不要で採用可能
技術的特徴
- 動的手数料設計:市場状況と清算価値で手数料変動
- ユーザー直接還元:捕捉OEVを対象ユーザーへ直接分配
- マルチフィード集計:複数価格情報で精度向上
- L2, Non-EVM最適化:低ガス設計で新規基盤に対応
制約事項
- 市場定着度:Chainlinkほどの認知度はなし
- 技術成熟度:本番運用経験が相対的に少ない
- 導入要件:独自データ配信モデルへの適応が前提
Pyth NetworkのOracle OFA:集中型アグリゲータ方式

出典:Multicoin Capital
コアアーキテクチャ
- グローバルオーダーフローオークション(GOFA):高頻度オラクルと連動の集中型オークションモデルで複数アプリからオーダーフロー集約
- オラクル主導統合:信頼性データ供給者として、重要ブロックスペースを確保し単一オークション運用
- オーダーフローバンドル:異なるプロトコルのオーダーフローを集約し深い流動性を実現、MEV抽出成功率向上
技術的特徴
- 流動性集積:複数アプリ・プロトコル横断でオーダーフローを統合、強力な競争的オークション実現
- スケールメリット:集積型でMEVボット参加率向上し、断片流動性を競争力に変換
- 運用簡素化:集中型で各プロトコルのオークション設計・運用負担を軽減
- 収益最適化:効率的なMEV再捕捉・分配でPyth及びエコシステム参加者へ直接利益還元
制約事項
- オラクル排他性:Pythオラクル利用プロトコル限定で、他ネットワーク混在時には非適用
- スケーラビリティ:高頻度集中オークション運用では参加数・オーダーフロー増加時にスケール・遅延課題
- 市場導入:広範な参加が不可欠であり、限定的だと流動性効果が減少
ソリューション比較
OEVソリューション選定時は次の観点が重要です。
- オラクル依存関係:利用オラクルと移行コスト
- リスク許容度:OEV捕捉最大化と遅延リスク低減のバランス
- 技術リソース:統合に必要な開発資源
- プロトコル経済設計:捕捉OEVの分配先(トレジャリー、ユーザー、LP等)
- クロスチェーン戦略:マルチチェーン運用要件
各ソリューションはOEV課題への対応方法、特化度、効率性、エコシステム連携が異なります。最適解は個別ニーズや既存インフラ、変化するDeFi業界での戦略により決まります。

Gate Ventures
プロトコル別最適化OEV
各ソリューションは対象プロトコルに合わせたOEV再捕捉・収益化を実現している。機構ごとのOEV設計を概説する:
Aaveはレンディングプロトコルとして、清算時のオラクル価格情報で追加価値抽出と資本効率最適化を行う。Chainlink SVRはDual Aggregator設計とFlashbots MEV-Shareを組み合わせ、清算時に大きな価値再捕捉を実現し、リザーブ強化・APY(年利)向上・競争力増進に還元する。
Uniswap V3(従来型AMM):集中流動性によりオラクル更新時に価格乖離が生じ、アービトラージ機会が増加する。Uniswap V3の高速環境にはAPI3 OEV-Shareが最適。サイドカー型オークションにより低遅延・高効率なデータ更新ができる。
Uniswap V4(Hookシステム・Flash Accounting搭載):V4はスワップ時にカスタムロジック統合が可能となり、フック直組込み可能なソリューションが必要。RedStone OEVは外部連携やネイティブOEVフロー構築を行い、V4フックシステムに最適で低遅延・柔軟なトレードロジック展開ができる。
Aerodrome ve(3,3)モデル:veトークンと(3,3)理論で参加者利益を調整。Chainlink SVRはDual Aggregator+Flashbots MEV-ShareでOEVを20~50%再捕捉し、APY向上と参加者拡大に寄与する。
パーペチュアルDEXはオラクルに依存して資金調達率・マーク価格を算定し、清算連鎖への脆弱性がある。UMA’s OvalはChainlink価格フィードをラッピングし、約90%のOEVをプロトコルへ還元し、価格安定・リスク分散が必要なパーペチュアルDEXに最適。
アグリゲータDEXは複数オーダーフローを集約し、リアルタイム価格更新・低遅延取引でMEV機会を最大化する。Pyth OFAは継続的・高速データ更新とシームレス統合に強みがあり、集約・即時処理を必要とするプロトコルに理想的。
まとめ:各機構に適合する推奨ソリューションは以下の通り。
- Aave:Chainlink Smart Value Recapture(SVR)
- Uniswap V3:API3 OEV-Share
- Uniswap V4:RedStone OEV
- Aerodrome:Chainlink Smart Value Recapture(SVR)
- パーペチュアルDEX:UMA’s Oval
- アグリゲータDEX:Pyth OFA
結論
OEVはDeFi領域の「バグ」ではなく、持続運営の重要な機能へと進化している。各種ソリューション導入により、プロトコルはMEVを隠れコストから収益化へ転換でき、次世代DeFiの成長エンジンとなり得る。
投資戦略上は、リスクに対処しながら機会を活用し、OEV課題をDeFiエコシステムの効率・価値維持促進の触媒へと変換できる。MEV再捕捉を優先するプロトコルは、より強固な経済モデルと長期持続性を実現する。
参考文献
Gate Venturesについて
Gate VenturesはGateのベンチャーキャピタル部門であり、Web 3.0時代に世界を再構築する分散型インフラ、ミドルウェア、アプリケーションへの投資に注力しています。グローバルの業界リーダーと連携し、社会・金融の新たなインタラクションを再定義するアイデアと実行力を持つ優秀なチームやスタートアップを支援しています。
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